![](https://i0.wp.com/saluk.jp/wp-content/uploads/2022/09/IMG_0355-1.jpg?resize=768%2C1024&ssl=1)
2022年夏のある日、一台の黒いハーレーがお店の前に停まりました。
その方は6月に知り合ったハーレー乗りのゲーム開発者のI氏(以降I氏)で、何か作って欲しいものがあるとのこと。
I氏の母国語が英語なので、翻訳ソフトを使いながら聞いてみると、
「自分は仕事をしながら日本中を旅したい。そこで仕事道具のパソコンをシーシーバー(後部座席に取り付ける背もたれ)に取り付けられて、今装着している網よりももっと強固で開閉可能なものを作って欲しい。」とのこと。
![](https://i0.wp.com/saluk.jp/wp-content/uploads/2022/09/IMG_8276-1.jpg?resize=768%2C1024&ssl=1)
当初、私の頭の中は???でいっぱいになりました。
普段やっている仕事と違いすぎるので自分にはできないと思って、「他にできる人を探して紹介します。」と言いました。
しかしI氏は「まずはやってみないか、もし失敗したとしてもあなたが働いた分の対価は払います。」と言ってくれました。
その言葉はありがたかったですが、そうとはいえ使い物にならないものになったとしたら対価をいただくわけにはいかないし、うまくいく自信はありませんでした。
ですが、こんな風に挑戦させてくれる方はなかなかいないと思ったし、I氏の旅を応援したい気持ちもあったので、ひとまず考えてみることにしました。
いざ制作へ
![](https://i0.wp.com/saluk.jp/wp-content/uploads/2022/09/Ivan-san.jpg?resize=900%2C847&ssl=1)
大先輩の石井さん(SALUKで煙管等を置いていただいている職人さん)に相談したり、I氏から受け取った3Dデザインを元に自分でも図面を書いたりしてイメージを膨らませていきました。
そして何とかできそうだな、と思い制作に踏み切りました。
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材料は真鍮。京都の角井銅商店さんで購入しました。
角井銅商店さんは私が学生時代から度々お世話になっている地金屋さんで、自分の思い通りの寸法で購入できる、親切丁寧なお店です。
まずL字アングルの両脇を45°に削り対角線からろう付していきます。
もう一方の枠も板の端を45°に削り、ろう付けしていきます。
真鍮のろう付けは錫のろう付けと違い、周辺も温める必要があったりと、少しコツが要ります。
周辺が熱くなってから、一気にろう部分に火を当てていきます。
![](https://i0.wp.com/saluk.jp/wp-content/uploads/2022/09/IMG_0101.jpg?resize=768%2C1024&ssl=1)
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![](https://i0.wp.com/saluk.jp/wp-content/uploads/2022/09/IMG_0102.jpg?resize=768%2C1024&ssl=1)
ろう付けを2箇所以上する時は、同じ融点のろうだと2箇所目をろう付けしている際に最初に付けたところが外れる可能性があります。
そこで融点の異なるろうを使ったりするのですが、ある程度距離があれば、外れてほしくないところにとの粉をペースト状にしたものを塗っておけば外れるのを防ぐことができます(金工豆知識)。
ろう付け後は酸化被膜ができるので希硫酸(水に硫酸を溶かしたもの。10%程度)の中にしばらく浸します。
シーシーバーに取り付ける部分は、テクスチャを入れた方がかっこいいかなと思って鎚目を打ってみました。
![](https://i0.wp.com/saluk.jp/wp-content/uploads/2022/09/IMG_0182.jpg?resize=768%2C1024&ssl=1)
![](https://i0.wp.com/saluk.jp/wp-content/uploads/2022/09/IMG_0193.jpg?resize=768%2C1024&ssl=1)
この後上からマットブラックスプレーをかけますが、下地が綺麗な方が塗装の仕上がりも綺麗かなと思って磨きました。
![](https://i0.wp.com/saluk.jp/wp-content/uploads/2022/09/IMG_0206.jpg?resize=900%2C576&ssl=1)
![](https://i0.wp.com/saluk.jp/wp-content/uploads/2022/09/IMG_0202.jpg?resize=900%2C562&ssl=1)
はじめは真鍮そのままの色でも合うかなと思いましたが、やはりマットブラックの方がI氏のおっしゃる通り、ハーレーに似合うものができました。
![](https://i0.wp.com/saluk.jp/wp-content/uploads/2022/09/IMG_0319.jpg?resize=900%2C616&ssl=1)
![](https://i0.wp.com/saluk.jp/wp-content/uploads/2022/09/IMG_0307.jpg?resize=900%2C675&ssl=1)
しっかりとした造りの蝶番は室金物店さんで購入。
創業1805年の歴史ある金物屋さんで、襖の引き手といった、伝統的な和風金物も多数取り揃えていらっしゃいます。
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開閉部の金具は私の頭を悩ませました。取り付け幅が大きい場合は頑丈な金具が見つかると思うのですが、今回のように狭い場合、小さくて頑丈な金具がなかなか見つかりませんでした。
ネットでいくつか取り寄せてみましたが、とても長時間の運転による振動に耐えれるようなものではありませんでした。
そしてようやく見つけたのが、タキゲン製造のステンレスロック付キャッチクリップ C-1007-12です。
この金具に出会ったときにようやく光が見えてきました。(I氏が帰ってこられた時ケースに問題がなければこの金具の価値が証明されると思います。)
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実際に物が出来上がっても、うまくバイクとジョイントできるか心配でした。
1日バイクをお借りし、穴の位置等を確認しました。
ケースとリアフェンダー(後輪の上のカバー部分)を繋ぐネジを長くする必要があったので、事前に径が同じものを購入していたのですが、径が同じでもピッチが異なり合いませんでした。
しばらくの間困惑していましたが、餅は餅屋とすがるような気持ちで、宝ヶ池のハーレーダビッドソンレオに初めて行ってみました。
場違いかな、と思いながら店内に入り「日本一周をするハーレー乗りの方のシーシーバーにつけるケースのようなものを作っているのですが、固定するための長めのネジがなくて困っている」と相談すると、親切な店員さん(店長さん?)のA氏は偶然か必然かI氏のことをご存知で、ハーレー用のネジをいくつか見つけてきてくれました。
そしてお支払いをしようとすると「中古のネジなので値段のつけようがないのです。」と無料でくれたのです。
優しい心遣いにとても感動しました。私のハーレーへの印象が120%になった瞬間でした。
ついに完成
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実際は取り付けの穴の位置が当初想定していたところと異なったりしましたが、パーツの追加でなんとか固定することができました。振動対策として内側にクッションを貼り完成です。
制作に必死で過程の様子をあまり撮っていなかったのですが、ある素材を合わせて初めてDaVinci Resolveで動画を作成してみました。
I 氏は9月14日に旅に出て、今のところケースも壊れたりしていないようでほっとしています。このケース作りを通して私自身成長したと思いますし、新しい発見や人の優しさを感じました。
このような機会をくださった I 氏に心より感謝いたします。
そして時折 I 氏から届く旅通信に和みながら、無事を祈っております。
SALUK 甲斐
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